論文の森の上を舞う

0 はじめに

 

論文答案を書く時、どう書いて良いかわからないって人もいますよね。自分でもう確立してるよっていう人もいるでしょう。ただ、そうでない人も多いことでしょう。筆者自身も書き方が確立したのはちょうど予備受験後のTKC模試ぐらいの時です。逆に、今年の受験生に関しても、このぐらいの時までにある程度の調整ができていれば良いのではないでしょうか。話は戻りますが、それまでは結構思考錯誤していました。

そんな時に参考になる材料として挙げられるのは予備校答案や再現答案というものでしょう。今回は初学者がまず手をつけるであろう前者の方について分析してみようと思います。

 

1 伊藤塾

実績も歴史もある老舗。安定を狙うならここって感じですよね。

入手経路としては、有料講座のほか、市販の本でも伊藤塾メソッドの入った答案例は手にできます(予備試験対策の赤本なんて有名ですよね)。

伊藤塾の答案例は本当にスキのない答案が多いです。試験でこれを書けたら相当上位でしょう。

しかし、それが故に生じてしまう問題があるのです。伊藤塾の答案は、どんな問題であっても4ページ(司法試験の場合は8ページ)フルで埋まっているのです。これは勿論見ていて有意義な部分(主に知識理解という点で)もある一方、お手本にしずら五という難点があります。

 

ここで、一つ心理的なものも含めて分析をしましょう。伊藤塾の答案は今言ったようにたっぷりとした分量で書いているだけあって、規範定立までの段階も理由付けを含めとても厚く論じられています。

そして、ここの部分はある程度暗記で何とかなるので受験生としては規範の部分を綺麗に書きたくなってしまうのです。

そこに落とし穴があります。規範をがっちり覚えても、その土台に乗せられる当てはめをしなければ点などつかないのです。これは伊藤塾だけではないですが、なぜか規範と当てはめに別々の配点が振ってあるのです。しかし、おそらく本番はそんな点数の付け方をしていません。規範と当てはめは連動して採点されているでしょうし、仮にそうでなくとも当てはめに振られている点数の方がはるかに高いです。

なので、とにかく自分なり一生懸命に問題分の事実と向き合った答案、言い換えれば泥臭い答案が評価されるのです。こういった答案は見た目はあまり綺麗ではないかもしれませんが、論文合格に不安がある人ほど意識してもらいたい点です。

当てはめが充実した答案が少ないというのは司法試験の採点実感とかでも言われているのですが、その背景には出来の良すぎる予備校答案と受験生心理があるというわけです。

 

また、司法試験に関しては採点実感まで反映した答案を出しているため、絶対に受験生が現場で書けないレベルにまでなってしまっています。おまけに書くだけでも2時間を超えてしまいそうな分量です。正直真似できる余地がないのでこれはかえって有害レベルとまで言えそうです。間違ってもこの答案を写経して勉強しようとなどとは思わないようにしましょう。

 

2 辰巳

これまた老舗の予備校です。

この答案例に関しては、市販で手に入れられるものは少ないです。ぶんせき本といった司法試験の過去問に答案例を付けてるという感じではあります。えんしゅう本などはもはや答案とは言えない構成しか載ってません。コロナ前は試験会場前で答練の過去問やら配っていたという話も聞きます。ただ、伊藤塾に比べては流通量は少なく、あまり馴染みのないという人もいるかもしれません。

 

ここの答案例の特徴は何といっても、分量の多さが異常なことです。先ほど伊藤塾の答案例は4ページギリギリと言いましたが、それでも一応収まってはいます。ただし、ここの答案はそれを確実に超えてます。一応4行という体裁はとっていますが、ひどい時はフォントをとても小さくして1行に60字近く入っていることもあります。こんなの物理的に真似できません。

他方で、ぶんせき本などでは1行のスペースを小さくする代わりに10ページぐらい書いてあるときがあります。これも厳密には文字数をカウントしていませんが、多分オーバーしているでしょう。

まず時間内に与えられた紙幅で勝負するのが前提です。それを守っていないというのはどうにもいただけないように思えます。

 

辰巳には実力派の教師も多いと聞きますので、確かにその答案例を講座内ではうまく生かしているのかもしれません。特に、今挙げた特徴は全先生のクラスにはあてはまらないのかもしれません。ただし、独学勢が答案例を生の素材として扱うのはかなり難しいのではないでしょうか。

 

ちなみに余談ですが、新庄健二先生のLIVE解説本はおススメです。特に独学勢にとっては、実務家の生の講義を本で落とし込んであるという教材は価値のあるものでしょう。

 

3 アガルート

近年台頭してきている予備校ですね。重問という講座でえらく支持を得ているという感じがします。

ただ、市販では解答例はあまり出回っていません。ただネットでは重問のサンプルは無料公開されていますので、一度見てみてはいかがでしょうか。

重問は何でもかんでも4ページまで書こうという訳ではなく、その問題に必要不可欠な分量での論述がされており、初心者でも真似のしやすい論述になっています。

一部そういった見解をとるのかと思う部分や、ここの論述は少し不足しているなと思う部分はあります。それでも、全く理由のない見解をとっているわけではなく、それを採用したから不合格になるという訳ではないでしょう。先物べたとおり、規範ばかりかっちりするよりも、当てはめを充実させたり、論文の型を身に付ける方がはるかに大事です。

ただし、重問自体予備試験特化で教材が組まれているわけではないです。別に予備試験用答練はありますが、これは問題が微妙です。本番の試験で求められている趣旨とズレた問題が結構あるように思えます。また、答案例も重問に比べると受験生に優しいという感じはしません。もしかしたら工藤先生があまり関わられていないのかもしれません。

独学勢には論証集ぐらいしか手に入らず、講座をとらないと基本的には答案例が手に入らないというのがネックではあります。あとはお財布との相談と言う事になりそうですね。

 

4 Wセミナー

もはや過去の予備校感があります。筆者もよく知りません。

ただここはスタンダード100という本を出しているので紹介しておきます。

 

この本は受験生が現実的に書けるというコンセプトのもと出版されている珍しい本です。

先ほど泥臭い答案というものを1で紹介しましたが、そんな答案も載っています。

逆に、難問を良い感じにごまかしていたりもするので、シンプルで受験生にとっても思考過程を追体験しやすいでしょう。

問題によっては、明らかにツッコミどころがある部分もあります。ただ、本番で書けたら基本的にA、悪くても合格ラインであるC(予備のランクの話です。)がつくものは多いと思います。つまり、全教科この水準にそろえれば受かります。

ただ、内容的に不十分である部分もやはりありますので、伊藤塾の答案と2つ見比べるのがオススメです。インプット用に使える後者と、実践的なアウトプットように使える前者の相乗効果はあると思います。

 

ただ、100問以上あるため、どうしてもおかしい答案例が混ざっているのも事実です。場合によっては、ちゃっかり5ページ6ページ書いてしまっているものもあります。こういのはあまり参考にならないので、そこは飛ばししてというのが賢明です。

 

長所と短所のどちらもかなりあるという変わった本ですが、上手くいかせるとかなり役に立ちます。これを土台に自分なりの合格答案像を掴めると最高です。そしてそれができたら上位合格もまったく夢ではありません。

 

5 LEC

ここも伝統ある資格指導の学校ではあります。ただし、他の予備校より司法試験に特化している感はなく、どうしても見劣りしてしまう所が多いです。

 

その影響が出てしまっているのか、近年の試験で求められている答案とは異なった答案例を出してくることが多いです。いわゆる論点主義的な悪しき予備校答案というものですね。新司黎明期ぐらいまではここの予備校も需要があったのかもしれませんが、今はどうでしょうね。どうにもトレンドに乗り切れていない感があります。

 

予備論文等が終わると解答速報を爆速で出してきますが、そのクオリティが残念なことが多く、5chで叩かれのが風物詩となっています。過去問の解答等をネットにタダで挙げている慈悲的な精神は見上げたものだなとは思いますが。

 

市販されている本だと論文の森がありますね。今回はそれを文字ってブログのタイトルもつけています(元ネタが分かった人はニヤっとしてみてください)。

こちらも科目によりバラつきはありますが、やはり旧試的な感はぬぐえません。場合によっては当てはめがとてもひどいです。未だに旧試の森にでも彷徨っているのでしょうか。

 

これだけ書いちゃうとオワコン的な感じにも思えますが、あくまでも個人の意見ですので悪しからず。論文ではないですが、択一六法なんてありがたいですよね。受験生時代愛用していました。

 

6 BEXA

あんまり実態は知らないです。色んな先生の講座が集まった集合体みたいな感じなんですかね。

今回取り上げたのは、面白そうな講座があったからです。

それは4S講座というもので、他の予備校講座とは一風変わったものとなっています。

コンセプトはどんな問題がきても何とか合格ラインに乗せられるようにするというものです。

言い換えれば’(未知の問題もある程度準備できる論点も)すべて現場思考で対処するということですね。事前に用意してきた答案を披露するという姿勢は戸は一線を画します。事前と当てはめ勝負の答案になってくることにもなります。

これをいわゆる4S理論というらしいのですが、個人的には興味深いと感じました。使いこなせるとかなりの武器になります。

 

ただし、難点も当然あります。講座紹介では法律実学者向けとありますが、おそらくこの理論をよく理解するには合格間近の受験生レベルじゃないと無理な気がします。

ある程度十分な法律知識と、4S理論の結合というものがあれば良いのですが、おそらくそんな人はもう合格できてしまうのです。

 

初学者がインプットなしでいきなりアウトプットから始めるというのはやはり無理があるでしょう。

 

また、友人にこの講座の教材の一部を見せてもらいましたが、憲法はひどかったです。当てはめ勝負といいながら、規範定立までの流れが雑すぎます。しかも何でもかんでも公共の福祉を挙げてしまったりしているのも良くないです。

その他、現場勝負で押し切ってしまうからか、判例の見解をあまり意識していない論述も見受けられます。網羅性が足りないのも中々に痛いです。これでは4S理論を身に付けてしまうまでに講座が終わってしまうでしょう(特に全く書き方の知らない受験生はそうなりそうです)。

 

面白いと思う部分はある反面、諸刃の剣な所が多く、初心者向けといううたい文句とは裏腹に、上級者向けになっている気がします。

 

7 まとめ

さて、ここまで長々と紹介してきましたが、結局のところきちんとした活かし方ができればどれでも良いのです。

とにかくそのままではどの予備校のも完璧には使えないということが大事で、それを土台にして自分なりの答案の書き方というものを身に付けねばなりません。

全体的で整った形の予備校答案を目指してしまうかもしれません。しかし、より現実的でしっかりと点数の稼げる答案でないと意味がないです。

難問であればあるほど拾うべき問題文の事実から規範を逆算するというテクニックも大事になってきます。

また時間に余裕があれば実際に答案の型みたいなものも紹介できればいいですね。ひとまず今回はここまでにしまう。何かしらご参考になれば幸いです。